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2006.04.15

ふたりの研究員 三次元の生き物

 須淡の手にしたレポートのタイトルは「単多球体による複数人格のモデル化について(その1その2)」とある。

須淡@新人研究員(以下、須)「酒が入るとそんなに豹変するのかなぁ……まあ、学生のときからなんとなくそんな気はしてたけど、そんなにひどいのか。所長もレポートの冒頭に書くほどだし……はぁ」

 加枝研究室には須淡しかいない。加枝も形城も土院もいない。
 酒が入ると人格が変わるというのは、ハンドルを握ると人格が変わるのと同様に古今東西よくある話。しかし須淡のため息はそれだけではなかった。

須「これ、やっぱり球体じゃなくて、面や線でも説明できるよなぁ……」

 出古井のレポートでは球体を用いて擬似的に人格をモデル化している。しかし球体ではなく、、またはを代用してもレポートと同様の説明ができると須淡は考えていた。事実、それは説明可能である。これはレポートを作成した出古井自身にもわかっていた。「この人格モデルは、要再考です。」とレポートの最後にあることがその証拠といえる。

須「でも、きっかけは花見か。全然覚えてないんだよな。結局、花見に出た人全員に聞いたけど誰も答えてくれなかったからなぁ。霜月さんなら今からでも花見に出席することが出来るのかなぁ。きっと、出来るんだろうな」

 多次元を自由に移動できる霜月も加枝研究室にはいない。そもそも霜月は神出鬼没でいつ、どこに現れるか誰にもわからない。

須「これ、四次元や五次元の空間世界で生きている人が考えたら、おそらく四次元的五次元的な発想になるんだろうな。球体ってのが三次元的だし」

 あれこれ考えてみても今まで三次元の空間世界で生きてきた須淡には、わからないことだらけだった。頭ではわかっていても、須淡はまだまだ常識に縛られている。何度もレポートを読み返してみても、そこから須淡の答えを導き出せるヒントはなにもなさそうだった。

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2006.04.01

ふたりの研究員 毎日が4月1日

須淡@新人研究員(以下、須)「土院」

 身体を乗り出して小声で土院に話しかける。

土院@新人研究員(以下、土)「んー?」
須「加枝室長、姿が見えてるよ
土「えっ、マジでっ!」

 研究室を見まわす土院。加枝はいつものように姿は見えず、ペンだけが空中でくるくるとまわっている。

土「見えないじゃん」
須「土院」
土「ん?」
須「今日、4月1日
土「……だから?

 土院はまったくわかっていないようだ。須淡は眉をひそめた。

須「ごめん、僕が甘かった。常識はここに来たときに捨てたんだった」
土「常識くらいちゃんとあるぞ」
須「じゃ、一般常識がないのか」
土「ここは第88研究所だぞ」
須「そうだった。一般常識に縛られていたら、ここにはいられないか」
土「そういうことだ」

 我関せずを決め込んでいた形城がふっと目の端で加枝の姿をとらえた。形城も数年ぶりに加枝の姿を見る。あまりのことに驚いて声が出ない。なにか言おうとすると、加枝はすらすらとペンを走らせ、「今日は4月1日ですから」と書いて見せた。
 須淡と土院は加枝に背を向けているので、ふたりとも加枝の姿は見えてない
 しばらく姿をあらわしていたが、形城の見守る前で、加枝はすーっと姿を消した。

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