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2006.03.05

ふたりの研究員 一晩で壁はならず

 破研が壁を壊した翌日、須淡はいつものように研究室の前まで来ていた。しかし、まだ研究室の中には入っていない。

須淡@新人研究員(以下、須)「……壁はあるけど、壁しかない。場所、ちがったっけ?」

 壊された壁はきれいに直っている。どこが壊されたのかまったくわからない。そして、ドアがあった場所も壁になっている。ドアはどこにもない。どこを叩いてみても音に違いはみられない。
 須淡は頭を抱える。広大な第88研究所では、誰かに聞こうにも誰もいない。かすかな希望があるとしたら、研究室に用がある人が来るのを待つしかない。
 何度も記憶をたどってみたが、今、須淡のいる一面の壁に研究室のドアがあるはずだった。昨日は破研によって壊された壁が、今日には直っている。それ自体は、ここでは驚くことじゃない。問題は研究室がないってこと。

須「ここで間違いないはずなんだけどな……それともどこかで道を間違えたかな。いや、そんなはずはない」
土院@新人研究員(以下、土)「早起きはするもんだな」

 壁が開いて土院が現れた。須淡は突然のことに声も出ない。すべて壁に見えていたが、ちゃんとドアがあるようだ。

土「わからないだろ。これ、創研がつくったんだってさ。今は空いてるからドアだってわかるけど、閉めると完全ににしか見えないよなあ」
須「これが、ドア……?」

 須淡は開いたドアを触ってみる。確かに壁にしか見えないし質感もでしかない。しかし中は研究室になっている。

形城@主任研究員(以下、形)「おはよう、須淡くん」
須「あ、おはようございます、主任。これ、すごいですね」
形「なかなかおもしろいものを見せてもらったわ」
須「なにをです?」
土「ドアを閉めてみればわかる」

 土院は須淡を押して研究室に入れると、自分は廊下に出たままドアを閉めた。ドアが閉まると、廊下側の壁一面がすーっと色が抜けて、廊下が丸見えになった。

須「もしかして、ずっと僕が廊下で悩んでいるのを見てたんですか」
土「見てたよ。しかも声も聞こえる。そっちの声は聞こえないけど、廊下側からは筒抜けなんだ」

 土院はこちらを向いて話している。

形「見てたわ。こっちの声が聞こえないから、今の土院くんは廊下で壁に向かって独り言をいってるのよ」
須「すごいですね。マジックミラーの壁版ってところですか」
形「そうね。でもまだ研究段階で、時間とともに向こう側が見えなくなり音も通さなくなって、結局普通の壁にもどるって言ってたわ」
須「戻るまでどのくらい時間がかかるんですか?」
形「早ければ今日中、遅ければ今週中。ばらつきがあるみたいで、何とも言えないっていってた」
須「そうですか。でも、創研ってすごいですね。こんなのを一晩でつくっちゃうなんて」
 土院がドアを探しているのが見える。わかっていても、どこがドアだかわからなっているようだ。

形「一晩でつくれるわけないでしょう」
須「え、でも、昨日壊れて、今日なおっているんだから、一晩しかないじゃないですか」

 土院がドアを探り当てて研究室に入ってきた。

土「見えてるんだから開けてくれよ。それにしてもほんっとうにわからないな」

 タイミングの悪いときに土院が入ってきて、会話が一瞬止まった。

土「なに?」
形「なんでもないわ。さっ、仕事しましょう」
須「そうですね。いちいち驚いていてもしょうがないし。あ、でもドアだけは何とかして下さい。これじゃわからないですか」
形「そうね。創研に作り替えるように伝えておくわ。そうすれば夕方にはちゃんとドアだけは戻っているでしょう」

 須淡はどうやって一晩ではつくれない壁を創研がつくったのか考えていた。形城に答えを聞けばそれでわかるだろうが、しばらく考えて自分で答えを導き出そうと決めた。しかし自分にはまだわからないのだろうと思った。

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