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2006.01.14

ふたりの研究員 タバコに火はつけない

 喫煙室の常連は決まっているが、第2喫煙室は他から遠い場所に設置したため使われることは少なかった。常に空き室であることが多い第2喫煙室に、ひとり座ってタバコをくわえている人がいた。まだはついていない。

霜月@特例客員研究員(以下、霜)「形城くん、それ――」
形城@主任研究員(以下、形)「まだ火はつけてない

 ポケットにつっこんでいた手を出した。右手にはライターが握られている。

霜「何度も言いますが、それ、タバコですよ。わかってますか?」
形「まだはつけてないでしょ。火をつけるつもりはないから、どっか消えなさいよ」
霜「もう消えてます
形「ここではないどこかへ」
霜「僕がいるのは、ここではないどこかです」

 形城はあきれたように首をふった。

霜「そうはいっても形城くんが言われたことでしょう。タバコをやめたいから、もし吸っていたら実力行使で止めてくれって。もう忘れましたか? 私はまだちゃんと覚えています」
形「私も覚えてる。あれ以来ちゃんと禁煙してて、タバコはもう吸ってない。それにこのライター、火がつかないの」

 ポケットからライターを出して火をつけようとするが、火花が散るだけではつかない。ライターを握りしめると、目を閉じて天井を仰いだ。

霜「ほう、吸わないタバコと火のつかないライターをいつも持っているんですか?」

 妙にトゲのある言い方に、形城はちいさく眉をひそめた。

形「めずらしいこともあるのね。霜月特例客員研究員ともあろうかたが先入観に囚われているなんて」
霜「先入観? なんのです?」
形「タバコは吸うもの。ライターは火をつけるもの」
霜「この場合は経験則ですよ。形城くんひとりだったら、火をつけていたんじゃないですか?」
形「さあ、どうだか」

 灰皿の横に三枚の札があらわれた。

霜「それ、須淡くんと土院くんに渡しておいてください」

 物憂げに札を見つめる。ため息一つ。ずっとくわえていたタバコを指でつまみ、灰皿に向かって投げた。

形「私をパシリに使うつもり……まあいいっか

 火のついていないタバコは灰皿に。形城は札を手に取り立ち上がった。

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