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2006.01.26

見えざるものは敵か味方か

 出古井です。
 不安は不安を呼び、小さな不安だとしても、すぐに大きくなります。その大きさは限度を知りません。
 私は「不安の深淵」と呼んでいます。
 最近、これに足をかけているのか、それともすでに落ちているかよくわかりません。あまり考えすぎると、それは不安となります。あまり考えすぎるのは、よくありません。

 不安をぬぐい去る方法は、ストレス発散と同じで人それぞれです。一般的にいわれるのは、不安であることを忘れるくらい忙しくすること。ケース・バイ・ケースですので、これが最良の選択というわけではありません。

 私の場合、不安は考えすぎず内包することにしています。不安を完全にぬぐい去ることはむずかしいので、不安を認めて内包してしまう。こうすることで、不安が大きくなるのを抑えます。ずっと不安のままではなく、ゆっくりと時間をかけて変質させていくのが目的です。どのくらいの時間が必要なのか、正直わかりません。
 例えとして正しいかどうかわかりませんが、これは爆弾を抱えるようなものです。しかし爆弾だとしても、使い方ひとつで結果はさまざまに変化します。

 不安は目に見えません。形もありません。それをとらえるのは、とらえる人の気持ち次第ということです。

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2006.01.14

ふたりの研究員 タバコに火はつけない

 喫煙室の常連は決まっているが、第2喫煙室は他から遠い場所に設置したため使われることは少なかった。常に空き室であることが多い第2喫煙室に、ひとり座ってタバコをくわえている人がいた。まだはついていない。

霜月@特例客員研究員(以下、霜)「形城くん、それ――」
形城@主任研究員(以下、形)「まだ火はつけてない

 ポケットにつっこんでいた手を出した。右手にはライターが握られている。

霜「何度も言いますが、それ、タバコですよ。わかってますか?」
形「まだはつけてないでしょ。火をつけるつもりはないから、どっか消えなさいよ」
霜「もう消えてます
形「ここではないどこかへ」
霜「僕がいるのは、ここではないどこかです」

 形城はあきれたように首をふった。

霜「そうはいっても形城くんが言われたことでしょう。タバコをやめたいから、もし吸っていたら実力行使で止めてくれって。もう忘れましたか? 私はまだちゃんと覚えています」
形「私も覚えてる。あれ以来ちゃんと禁煙してて、タバコはもう吸ってない。それにこのライター、火がつかないの」

 ポケットからライターを出して火をつけようとするが、火花が散るだけではつかない。ライターを握りしめると、目を閉じて天井を仰いだ。

霜「ほう、吸わないタバコと火のつかないライターをいつも持っているんですか?」

 妙にトゲのある言い方に、形城はちいさく眉をひそめた。

形「めずらしいこともあるのね。霜月特例客員研究員ともあろうかたが先入観に囚われているなんて」
霜「先入観? なんのです?」
形「タバコは吸うもの。ライターは火をつけるもの」
霜「この場合は経験則ですよ。形城くんひとりだったら、火をつけていたんじゃないですか?」
形「さあ、どうだか」

 灰皿の横に三枚の札があらわれた。

霜「それ、須淡くんと土院くんに渡しておいてください」

 物憂げに札を見つめる。ため息一つ。ずっとくわえていたタバコを指でつまみ、灰皿に向かって投げた。

形「私をパシリに使うつもり……まあいいっか

 火のついていないタバコは灰皿に。形城は札を手に取り立ち上がった。

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2006.01.06

ふたりの研究員 雷の落ちる先

 加枝研究室に入ってきた須淡は部屋を見まわした。部屋には土院と形城、それにペンをまわしている加枝がいた。加枝の姿は相変わらず見えない。

須淡@今年も新人研究員(以下、須)「…………」
土院@やっぱり新人研究員(以下、土)「……なんか言えよ」
須「あっ、ええと……あけましておめでとう」
土「今年もよろしくって、ちがうだろ」
須「じゃあ、お年玉ちょうだい」
土「俺に言うな。主任か室長に言え」
須「じゃ、形城主任。お年だ――」

 形城は須淡を一瞥した。それだけで十分だった。

須「なんでもないです。室長、お年玉ください」

 ペンがピタッと止まった。すらすらとメモ用紙に「お年玉」と書くと、メモをちぎって須淡へ差し出した。メモ用紙が宙に浮いている。須淡はメモを取ると、丸めてゴミ箱へ捨てた。ペンがむなしくまわりだした。

形城@主任研究員(以下、形)「須淡くん、土院くん。ちょっといいかしら
須「はい、なんでしょう?」
土「ん?」
形「あなたたち、去年の9月からまったくなにもやってなかったようだけど、この先どうするつもり?」

 ふたりは顔を見合わせた。

土「いや、あれは不可抗力です。もしくは自然の摂理です」
形「そう。じゃあ、須淡くんのご意見は?」

 とげとげしく鋭い形城の眼光が須淡を射ぬく。

須「あの、あれはですね、そのぉ……申し訳ありません」
形「須淡くん、いったい誰に何をあやまっているの?」
須「去年の9月から更新が止まったことに、です。誰っていうのは、誰なんでしょう……?」

 誰に投げかけたわけでもない須淡の疑問は宙に消え、むなしさだけが残った。須淡には無言の重圧がいちばんキツイということを形城は知っている。

霜月@特例客員研究員(以下、霜)「まあまあそんなにイジメなくてもいいでしょう、形城くん」

 声は聞こえるが、霜月の姿はどこにもない。形城は机を指でコツコツとリズムよく叩きだした。次第に机を叩く音がはやくなっていく。最後にひとつ、拳を握りしめて思いっきり振り下ろした。

形「いつもいつも姿を隠してないで出てきたらどうなのっ、霜月っ!

 須淡と土院は直立不動のまま、研究室のなかを見まわした。だが霜月の姿はどこにもない。須淡が入ってきてから研究室のドアが開いたわけでもない。

霜「形城くんは今日も元気だねえ。でもその元気を彼らにぶつけることもないだろう? ふたりとも萎縮しちゃってるじゃないか」
形「いいから出てきなさいっ!
霜「そうすれば君の元気も少しはおさまる?」
形「自分で確かめてみなさいよ」
霜「それもそうだ」

 そう言いながら須淡と土院のあいだに現れた

霜「まああれだ。彼らだって好きでほったらかしにいていたわけじゃないだろ。なあ?」
土「もちろん」
須「はい」
霜「ということだ」

 形城は憮然としている。

須「予定としては空白の三カ月間の穴埋めをして、その後は以前のようにやっていければと思ってます」
形「だからそれは誰に対して言ってるの? 別に私はいいのよ。研究さえちゃんとやっていれば。でも、それすらもやってないでしょ?」
土「なんもやってないです」
須「……そうですね。研究も手つかずです」
形「私が言ってるのはそこよ。丸々三カ月以上、なにもやってなかった。あなたたち、ここにいる意味あるの?」
霜「今日は一段と手厳しいねえ。どこか虫の居所が悪いらしい」
形「黙ってて」

 霜月は口にチャックをする仕草をすると数歩下がり、音もなく姿を消した。途端、研究室は静かになった。加枝のまわしていたペンが止まり、すらすらと文字を書き始めた。始めに気づいたのは土院だった。次に須淡、形城が注目する中、ペンが止まってメモ用紙が宙に浮いた。

「まだ彼らはここに入所してから1年もたっていません」と書かれていた。そのままペンが走る。次のメモ用紙には「形城くんが入所したときはどうでした?とある。
 形城は眉をひそめて床を見つめる。それまでの勢いがなくなっていくのが、須淡にも土院にもわかった。
 二つのメモが下げられ、新たなメモが宙に浮いた。「ふたりとも、形城くんが言いたいことはもうわかりますね?」

土「なんとなく」
須「サボるなってことはわかりました」

「結構。ではそれを行動で示して下さい」というメモを最後に、またペンがくるくるとまわりはじめた。

形「私から言うことはないもないわ。新年早々、こんなことを言うつもりはなかったのに、ごめんなさい。ちょっと休憩してきます」

 そう言い残して形城は研究室を出ていった。足取りはしっかりしていたが、今にも消えてしまいそうだと須淡は思った。取り残された須淡と土院は、それぞれの机についた。加枝のペンが止まり、メモに「私も少し言い過ぎました」と書かれた。メモはくしゃくしゃ丸めてゴミ箱に投げ入れられた。

須「霜月さん、まだいますか?」

 返事はない。

土「主任のあとを追ったんじゃないか」
須「そうかもね」

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2006.01.02

謹賀新年

 2006年になりました。あけましておめでとうございます。
 所長の出古井です。去年は第4四半期からまったく更新しないという体たらくでした。須淡くんと土院くんにすこし任せすぎたかもしれません。
 今年はもう少し更新のペースをあげていこうかと思います。

 今後とも第88研究所をよろしくお願い致します。

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