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2005.09.14

ふたりの研究員 恐るべし、破研

 廊下と部屋には大量の砂があった。壁があった場所が山の頂点となり、高さは須淡の身長と同じぐらいある。須淡には崩された壁の残骸が多いように思えた。天井は崩れていない。廊下も同じ。なくなったのはだけのようだ。

土院@新人研究員(以下、土)「なんだこりゃ。いつからオープンな研究室になったんです、形城主任」
形城@主任研究員(以下、形)「なにいってるの、まえからオープンな研究室だったわよ。知らなかった?」
土「いま知りました」
須淡@新人研究員(以下、須)「形城主任、なにがあったんですか?」
形「須淡くん、目でも見えなくなったの?」
須「いや、ちゃんと見えますが……」
形「なら、見ての通りよ
土「加枝室長が壁と一緒に消えた」

 しれっと即答の土院。須淡はしばらく考えて答えた。

須「壁とドアがになった……でも、どうして?」
形「ふたりとも不正解
須「えっ、でも壁もドアも――」
形「消えてはいないし、砂にもなっていない。須淡くん、砂ってなに?
須「えっ? 砂ですか。砂は、砂です。岩石の小さな粒、です」
形「粒の大きさは?」
須「……わかりません」
形「直径二ミリ未満から十六分の一ミリ以上。これはどうみてもそれ以下。だから不正解」

 山から壁だったものをひとつまみして、目の前ではなした。さらさらと落ちるそれは、砂というには粒子が細かすぎる。

形「よく見なさい。これらは全部、もとは壁でありドアだったものよ。分子構造が壊れたからここまで細かくなっただけ」
土「加枝室長も一緒に?
形「そんなわけないでしょ。ちゃんといるわよ」

 ほら、と指さした先には、なにもない空中でくるくるとペンがまわっていた。

須「慣れたとはいえ、やっぱりあやしいですね」
土「もはやワンパターンだな」

 ペンがピタッと止まった。チッチッチッとばかりにペンを左右に小さくふると、真上へ投げた。ペンをとると同時に今までにない速さで複雑にペンをまわす。めまぐるしくまわるペンに須淡と土院は圧倒された。

土「すげぇ……」

 まだペンはまわりつづけている。

形「加枝室長、それはわかりましたからなにか着てください。そろそろ破研の人たちも来ますから」

 加枝のペンが止まり、椅子にかけてあった白衣をまとうと、まわしていたペンを胸ポケットに入れた。まさに透明人間が白衣を着ているという図だが、須淡と土院は妙な新鮮さを感じた。

土「なんか、新鮮だな」
須「室長、ちゃんと人間の形をしてたんですね」
土「そこかよ。まあ仮に室長が人でなかったとしても、驚かないけどな」
形「本当でしょうね?」
土「ええ、もちろん」
形「須淡くんは?」
須「えっ、僕ですか? だいぶここに慣れましたけど、あんまり自信はないです」
形「だそうよ、室長。そろそろ姿を見せたら?」

 加枝は腕を×の字に交差した。白衣を着たことで腕が使えるのがうれしいのか、ペンをまわさず自分がまわってみせた。助けを求めて形城を見る須淡。土院は拍手している。

須「形城主――」
形「須淡くん、ここに慣れたのでしょう? ならば気にする必要はない。ん、やっと破研の連中が来たな」

 ぞろぞろとオレンジのツナギを着た集団がやってきた。全部で八人。丸められた巨大なホースを台車にのせている。

綱木@破研副主任(以下、綱)「よう形城。これ、持ってくぞ」
形「よけいな物まで持ってかないでよ」
綱「わかってる。形ある物は持っていかない。それでいいだろ。よし、これ全部運ぶぞー」

 残り七人はしずかにうなずくと黙々と作業をはじめた。巨大なホースを伸ばして廊下を曲がった。

綱「これで全部持ってく。ちょっと待ってろ。お、そこのふたり。もしかして新人か?
形「そうよ。綱木のところはどうしたの?」

 綱木は首を横にふった。

綱「残らなかった
形「あら、そう。逃げられたの」
綱「いや、なにも残らなかった。俺らの実験は、こーゆーのばかりだからな」

 綱木は壁だった残骸を見た。

形「それならいい研究材料にはなったわけね。そういえば須淡くん、土院くん。あなたたち、そろそろほかの研究室にいってみない?」
土「いや、遠慮します」
須「僕も。それにさっき所長のところでしばらくここにいろって言われました」

 形城と綱木は顔を見合わした。

形「所長が? めずらしいわね。研究のことで口出しするなんて」
綱「新人だからか。いいなあ、新人! 俺らんところにこないか?」

 須淡と土院は力一杯、首をふった。綱木はおおげさに肩を落としてみせた。廊下から巨大ホースを持っていったオレンジのツナギを着た研究員が戻ってきた。すぐに吸引がはじまり、残骸は残らず破研の部屋へと吸いこまれていった。

綱「じゃ、俺は戻る。あとはこいつらがやってくれるさ」
形「綱木、これ返すわ。弾が勝手に出るなんて、不良品じゃないの?」

 形城は銃を投げて綱木に渡した。

綱「ああ、タイマー式だからな。言ってなかったか? だとしら、すまん。じゃ」

 銃を受けとった綱木は、破研の研究室へ戻っていった。

 ほどなく残骸はすべて吸いとられ、七人のツナギは撤収していった。残されたのは、あけっぴろげになった加枝研究室とその研究員たち。

須「、どうするんです?」
土「なかったら作るしかないだろ」
形「創研がやってくれるわ。明日には元通りよ」

 すらすらっと加枝のペンが走った。「新創造研究室。略して創研は破研の反対です」

土「便利な研究室だな」
形「それじゃ今日はもう帰っていいですよね、加枝室長?」

 大きく腕で丸の形をつくり、加枝はくるっとひとまわりした。

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2005.09.12

どこかでひとり、語る男

 どうもどうも。霜月です。お久しぶりですね。どうも時間があいてしまったようで、ちょいとお邪魔させていただきました。
 なにやら加枝くんのところの研究室がえらいことになってますね。まあ、ドアと一緒に壁がなくなっただけですから、たいしたことないと思いますよ。研究室の中に極小のブラックホールが発生したわけでもなく、加枝くんの姿が見えるようになったわけでもなく、初代所長が戻ってきたわけでもないのだから。
 破研の連中の〈実験〉で壊れたのでしょう。アレは〈実験〉と称してなんでもかんでも壊しますからね。で、壊したら破片を片っ端から収拾し、しばらく外界からの接触を断ちます。おそらく〈実験〉の検証なんかをやっているんでしょう。
 以前、ちょっと破研の中をのぞいてみたら、追い出されました。

 まあ、加枝くんのところの研究室も、すぐにきれいになって、ドアと壁を作り直しするでしょう。それまではオープン研究室として、すごさなければなりませんけどね。
 須淡くんも土院くんも第88研究所にはだいぶ慣れたようですが、まだ知らないことが多いみたいですね。破研のこともそうですし。まだ若いですから、そのうち覚えるでしょう。形城くんもふたりが色々なことを覚えるまでは、まだ気苦労がたえないでしょう。いや、形城くんなら今の状況を楽しんでいるかもしれませんね。

 どちらにせよ、今後とも第88研究所をよろしく。

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