« ふたりの研究員 とある日のとある時 | トップページ | ふたりの研究員 事件は知らぬ間に »

2005.06.05

ふたりの研究員 イルカは真実を連れて

須淡@新人研究員(以下、須)「あれ、このぬいぐるみどうしたの?」

 机に置いてあるイルカのぬいぐるみをとりあげた。胸びれをつまんで広げたりしている。

土院@新人研究員(以下、土)「主任の趣味らしいぞ。下手に扱うと殺されるらしい」

 須淡はぬいぐるみが置いてあったところに戻して研究室内をさっと見まわした。加枝室長の机の上ではペンがくるくるとまわっている。土院はパソコンに向かってなにか作業をしていたようだ。主任の姿はない。

須「今、なにも見てないよね?」
土「主任が戻ってきたらちゃんと報告してやる。嘘をついたら、俺まで被害がおよびそうだ」
須「なにも見てないよね?」
土「骨は拾ってやる」
「見てないよね?」
土「あ、主任が戻ってきた」

 ドアが開いて主任が入ってきた。イルカのぬいぐるみに近寄っていく。

「主――」

 須淡が土院の口をおさえた。

須「それ、主任のですか? かわいいですね、バンドウイルカですか?」

 形城はイルカのぬいぐるみを撫でながらうなずいた。自然と口の端がゆるんでいる。須淡は土院を目で制しながら手をはなした。

「主――」

 ん?と形城が顔をこちらに向けると同時に、土院の口をもう一度おさえた。

須「主任、ぬいぐるみ、好きなんですか?」

 すこしはずかしそうに小さくうなずいた。やっとふたりの不自然さに気づき、首をかしげる。

須「あ、気にしないでください。いつものことですから」

 土院がイルカのぬいぐるみを指差し、次に須淡を指差し、ぞうきんをねじるようにジェスジャーをした。須淡は口をふさぐので手一杯で、土院の腕まではおさえられなかった。形城に土院の意図は伝わり、射抜くような視線を須淡に向ける。

須「ちょっと待ってください。僕はそんなことはしてませんって」
形城@主任研究員(以下、形)「そんなことは?」
須「いや、そんなことも、あんなこともです。たしかにちょっと持ってはみましたけど、それだけです。ぞうきんみたいに絞るわけないじゃないですか」

 形城の気迫におされて、土院を間にはさむように位置にうごいた。

土「つか、主任。普通にしゃべれるんじゃないですか

 我関せずとばかりにくるくるとまわっていたペンがぴたっと止まった。形城は気を削がれ、きょとんとしている。顔をしかめて目を閉じた。ため息をひとつ。目を開けると、いつもの形城主任にもどっていた。

形「今まで気づかないほうがどうかしている。須淡はとっくに気づいていたぞ」

 今度は土院がおどろいて目を見開いた。

土「ぜんぜん気づかなかった。いや、まだ信じられん。須淡、お前もぐる?
須「ぐるじゃないよ。僕は自力で気づいたんだ。土院、カマかけたけど、それが本当だとぜんぜん思ってなかったんだね」

 うなずく土院。

土「主任、なんでそんな面倒くさいことしてたんです?」
形「面倒くさい? あれがか? 頭の中でことばを再構築すればいいだけじゃないか」

 土院の知っている形城の口調からは一変して、形城は流暢にしゃべっている。須淡はもう慣れたが、土院はまだ面食らっている。

土「……試されてたってことか。で、須淡はパスして、俺はダメってことか」
形「私が勝手にやっていただけだ。はやくふたりがここに慣れるようにな。別にダメってことはない。ダメなら初めから第88研究所には入所できないだろう」

 形城はぬいぐるみを持って作業机に向かった。

土「なんで黙ってたんだよ」

 須淡をこづく。

須「主任に止められてた。土院ならすぐに気づくと思ったし」
土「いや、ぜんぜん気づかなかった。主任がミスらなきゃ、ずっと気づかなかったんじゃないか。でもこれでやっと筆談から脱することができるわけだ。加枝室長を除いて」

 くるくるとまわっていたペンがピタッと止まり、すらすらと文字を書いて紙を持ち上げた。宙に浮いた紙には『私もしゃべりましょうか?』と書かれている。

形「ダメです。しゃべる前に姿をあらわしてください」

『わかりました』と力ない字が書かれた。土院は須淡をみた。お前、なんか知ってんじゃないか? 須淡は首をかしげた。知らないよ。
 須淡と土院は思った。どうしてこう第88研究所には、ワケのわからない人が多いいのだろうと。

|

« ふたりの研究員 とある日のとある時 | トップページ | ふたりの研究員 事件は知らぬ間に »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/90629/4412141

この記事へのトラックバック一覧です: ふたりの研究員 イルカは真実を連れて:

« ふたりの研究員 とある日のとある時 | トップページ | ふたりの研究員 事件は知らぬ間に »