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2005.05.03

ふたりの研究員 札 一番――六次元へようこそ

霜月@特例客員研究員(以下、霜)「ゼロ次元は点、一次元は線、二次元は面、三次元は立方体。これはわかるね?」

 うなずく須淡と土院。

霜「なら六次元はもうわかったも同然だ。空間の三次元ではなく、時間の三次元を足したのが君たちにもわかりやすい六次元だ」
須淡@新人研究員(以下、須)「ゼロ次元の点は、今ってことはわかりますけど、二次元の線は、過去・現在・未来があり、それを前後に行き来ができるということですよね……でも、そんなことってあるのかな」
土院@新人研究員(以下、土)「霜月さん、十一次元の住人だっていうのなら、その低次元である六次元の動きもできますよね? 今、こうして三次元で動いてるわけだし」
霜「なかなか鋭いですね。ええ、それは簡単にできますよ。まっ、ことばよりもやってみせたほうが君たちもわかりやすいでしょう。そうですね。札を貸してくれますか?」

 須淡は一番と二番の札を霜月に渡した。

霜「ありがとう。では、一番と二番と三番の札をつかって、簡単な四次元の実験をしてみましょう」

 言うなり霜月の手元にあった一番の札が消え、二番の札を須淡に渡した。

霜「はい、二番です。つまり、私は一番、二番、三番の札を渡した通りに話しているのですが、君たちからは、二番、一番、三番という順序で話を聞くことになります」

 消えたはずの一番の札と須淡に渡したはずの二番の札が、霜月の手に突然あらわれた。須淡は自分の手にある二番の札と、霜月の手にある二番の札をなんども見た。
 霜月は一番の札を須淡に渡した。須淡はボーっとして札を見つめるだけで、かわりに土院が札をとった。

霜「まずは一番です。空間の三次元と時間の一次元を足した四次元は、時間軸を移動できることが特徴です。ですから、私は順序通りに君たちに話しているのですが、君たちには、私が言ったことは、ばらばらになります」

 霜月の手から二番の札が消え、三番の札だけ残った。須淡に二番の札、土院に一番の札がある。霜月は三番の札を須淡に渡した。

霜「はい最後の三番です。私はずっと君たちと同じ時間軸上を動いていますので、まだこれは理解できると思います。どうです、これが四次元です」

土「わけわかんねえ……いや、なんとなくわかったけど、手品みたいだな」
須「うん、手にあった札があらわれたり消えたりした。なんか手品みたいだった」
霜「そうですね。たしかに手品です。実際、今のと同じ方法でマジシャンをしている人もいます。まっ、私にはタネも仕掛けもバレバレなんですけど、君たちにはまさに手品、マジックでしょうね。あ、三番の札は返してね」

 須淡は三番の札を返した。

須「あ、はい。それで今のが四次元だとしたら、時間の面がある五次元というのは?」

 霜月の動きが文字通り止まった。動かない。

須「霜月さん……?」
土「考えこんでるじゃないか」

 よくみると、霜月は息きをしていなかった。

須「息してないよ! 霜月さん、大丈夫ですか?」
霜「これが五次元だ。ちょっとむずかしかったかな」
土「まったくワケがわからんな。もう少しわかりやすく教えてくれよ」
霜「注文が多いなあ。もうすこし自分で考えるってことも大事だぞ」
土「それはあとでやる。今は知りたいことがたくさんあるんだ」
霜「まあそれも一理あるね。わかったわかった。もうすこしわかりやすく説明しよう。今のは君たちの時間軸からはなれたわけだ。つまり、君たちは時間のゼロ次元、点の集合として線――過去・現在・未来の時間――を認識しているが、時間軸上の移動はできない。さらに面となると、君たちの認識の外にあるから僕のことが時間という観点からは見えなくなるんだ。そうなると、時間が止まってみえる。まっ、これはあくまで見かけ上そうとしか認識できなくなるというのが正しいだろうね」
須「つまり五次元上では、僕たちの時間軸からそれた動きが可能になり、それによってさっきみたいに空間上は移動することがなく、止まって見えた、と」
霜「正解正解大正解、といいたいところだがちょっと違う。さっきの僕は、三次元空間上も動いていた。でも、それはやはり君たちの認識の外でのことだ。そのためのその場に僕の姿があると思い込んでいたんだ。君たちの理解の範囲を越えるだろ? そのため脳が補完していたんだ。つまり、さっきここにいた止まっていた僕は、君たちの脳がつくりだした虚像なんだ」
土「ウソか。わからないことに対処できない脳がウソついたっていうことか」
霜「それが脳の機能のひとつだからね。だから君たちの脳は三次元を認識するのに特化しているという証明でもある」
土「詭弁にも聞こえるな」
霜「否定はしない。詭弁、論理破綻、へりくつ、なんとでも言い切ることができる。君たちもそうするかい?」
須「いや、まだわからないだけです。それに六次元の説明をまだしてもらってませんから」
土「ワケがわからんってだけで、否定はしてない。常識はじゃまだから捨てろって、形城主任がよく言ってることだし」
霜「やっぱり形城くんは、いい先生だね。ちょっとスパルタなところがあるけど。ではお待ちかねの六次元を説明しようか。でも、ここまでくれば、だいたい僕が説明しようとしている六次元は予想がつくんじゃないかな」
土「なんとなくな」
須「ええ、まあ、おぼろげながらは」
霜「うんうん。さっきも言ったように、空間の三次元に時間の三次元に足したものが六次元だ。では、時間の三次元はなにか。さっきの二次元での移動は認識の外だといったように、時間の三次元移動っていうのも、実は君たちにはまだ認識できない。やったとしてもさっきと同じ結果になるんだ」
土「止まったままの虚像があるってだけか」
霜「そうそう。もし君たちが五次元を認識できるようになれば、六次元の動きをする僕をすべて見ることができる。まるで分身の術をつかったようになる。僕がたくさん出現するんだ」
須「それもすべて虚像なんですか?」
霜「いや、それはすべて実像だ。さっき僕は五次元の動きをしたときに、時間と一緒に空間の移動もしたといったね。でも、君たちには認識できず、脳が虚像の僕をつくりだした。でも、認識できるのなら虚像をつくる必要がない」
土「分身がすべて実像だというなら、エネルギー保存の法則はまったく無視することにならないか」
霜「もちろんそうなる。でも、それになにか不都合でも? さっき君たちは二番の札がふたつあるのを見ましたよね? あれは手品なんかじゃない、まぎれもなく現実のこと。でも、常識ではありえないでしょうね」
須「あっ、そうだ。さっき、札が二枚でてきて……」
土「三次元の常識とそれ以上の高次元の常識は、ちがうってことなるな」
霜「なんだ、わかってるじゃないですか。いいですねいいですね。なかなかどうして、君たちは第88研究所に適応してますよ」
須「三次元で適用される常識を、ほかの次元では適用できない……そうしたら、次元ごとに常識があることになって、それぞれがバラバラの法則で成り立ってるってことになるのかな。いや、そもそも成り立っていないのかな……」
霜「須淡くん、土院くん。六次元はわかりましたか?」
土「なんとなくわかったような、わからないような」
須「正直、わからないです。考えることが増えましたから」
霜「はじめは誰でもそんなものです。もっとも、ほとんどの人は否定して、そこでおしまいです。どこの視点に立つのかによって、それは正しくもあり、まちがってもいるんです」
須「すこし考えを整理したら、またいろいろと聞いてもいいですか?」
土「いつここにいるんだ?」
霜「いつでもいますし、いつでもいません。次の札を渡したときに、なんなりと質問してくれてかまいませんよ」
土「メールとかは?」
霜「残念ながらここには僕に連絡がつくものがまったくないので、ちょくちょく顔を出すようにはしてます。それに僕でなくても、君たちにはとても有能な先生がいるじゃないですか」
須「形城主任ですか? でも、あんまり答えくれないからなあ」
土「人に聞かずにまずは自分で調べろ、だからな。それにしゃべってもワケわからん」
須「だいたいの意味はわかるけど、僕も細かいところまではわからないからね」
土「筆談ならすらすらと書けるのにな」
須「……そうなんだよね。ことばが細切れになって、ばらばらになってしゃべってるような感じなんだよ……」
霜「まあ、君たちがここにいるかぎり、また会う機会はあるでしょう。なにかあればそのときに。ではではこれで僕は失礼するよ」

 言い終わるなり霜月の姿は、音もなくスッと消えてしまった。

須「……やっぱり手品師かな」
土「そうでなければ、変わり者の手品師かもな」

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