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2005.05.11

ふたりの研究員 そこは巣窟の中

 須淡はゆっくりと目をあけた。まだもうろうとした意識の中、覚えていることを断片的に思い出していた。

 土院と一緒に形城主任の研究室に来て、形城主任に怒られた。気がついたら霜月さんがわけのわからないことを言うだけいって、また消えた。いや、その前に形城主任の逆鱗に触れた……そうだ。それで形城主任が消えて……どうなったんだっけ?

 あたりを見ると、形城主任の研究室だとわかった。隣に土院がいる。まだ目を閉じている。不意に須淡の顔を形城がのぞき込んだ。須淡は心臓が跳ねあがるほどおどろいて一気に目が覚めた。後ずさりしながら須淡は起きた。

須淡@新人研究員(以下、須)「あ、主任。すいませんでした」

 なにに対してあやまったのか須淡自身よくわかっていなかった。形城はやさしくほほえんだ。

形城@主任研究員(以下、形)「忘れて、神経を、かければ……私、それ、よかったけど、鍵。いたから……ちょうど、ごめんなさい」

 たどたどしいことばの中に、須淡は謝罪のことばを見つけ出した。相手を威圧する目で語っていた形城とは、まったくの別人のようだ。
 形城はマグカップにコーヒーを注いで椅子に腰かけた。須淡は向かいの椅子に座った。

須「霜月さんに言われました。研究に没頭しているときの形城主任に近寄るなって。たしかいちばん最初に会ったときに言ってましたよね。僕たちがそれを忘れていたからいけないんです。申し訳ありませんでした」

 十六番の札を二枚、机に置いた。

須「これは霜月さんの札ですよね。またわけのわからないことを一方的に話したら消えちゃいました。霜月さんっていつもああなんですか?」

 形城はよくわからないというように首をかしげた。

須「今度会ったときに、またいろいろ聞いてみます。ところで主任って、もしかしてちゃんとしゃべれるんじゃないですか?

 形城は完全に意表をつかれて、一瞬目を見開いて動きが止まった。

形「意外と気づくのがはやかったわね、須淡くん」

 今度は須淡の動きが止まった。確証はなかったが大当たりをひいてしまったことに須淡自身が驚いている。

形「そんなに驚くことでもないでしょう。ヒントはいくつもあって、それをずっと見てきたんだから」
須「でも、なんでそんなことを?」
形「先入観や偏見、それに常識にしばられない自由は発想ができるかどうかを試していたの。私自身、幼稚な手だと思ったけど意外とわからないものね。土院くんは気づいているの?」
須「いや、土院はまだ気づいてないと思いますよ。僕も確信があったわけではないじゃないし。ただ、気にはなっていました」
形「いつごろから?」
須「主任との何度目かの筆談です。あんなしゃべりをする人が、どうして筆談だとすらすらとことばを書けるのかなと思って」
形「ふーん。でも、まあよくわかったわね。あらためて、ようこそ人にして人外の世界魑魅魍魎の巣窟、第88研究所へ」

 手を差しだす形城に須淡は戸惑っていた。

形「怖がることはないわ。ただ、そう呼ぶ人もいるってだけの話よ」
須「はあ……あらためて、よろしくお願いします」

 須淡はおそるおそる形城の手を握った。形城はうれしそうに手を握りかえしている。
 なにも気づいていない土院は、目をさますことなく、まだ夢の中にいた。

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