« 「常識を捨てる」と「常識がない」 | トップページ | 札 十六番――意識の次元 »

2005.05.08

ふたりの研究員 寡黙な口、饒舌な目

須淡@新人研究員(以下、須)「形城主任――」

 形城は机から目をあげると、須淡を硬直させた。「なにしにきた?」といわんばかりのだ。

須「あ、あの……」

 須淡は果敢にもことばをつづけようとしたが、うまくことばがでない。形城の口はきつく結ばれたまま、「用件はあとだ。とっとと部屋を出ろ」といいたげなをしている。

須「あ、あとでまた――」

 来ますとつづけようとしたが、土院にさえぎられた。

土院@新人研究員(以下、土)「主任、ちょっとお聞きしたいことがあるんです」

 土院も硬直していたが、須淡よりは口がなめらかに動いた。
 形城は獲物をねらう肉食動物のように土院をにらみつけた。土院は心臓を鷲づかみにされたような感じがした。動けないどころか、動いたら握りつぶされそうだと思った。
「私はなにも聞きたくない。じゃまだ。去れ。消えろ。うせろ」と言われているようで、須淡はすぐにでも部屋を出たかったが、身体がいうことをきかない。土院もおなじだった。

土「あのですね……」

 土院もことばが止まり、それ以上ひとこともしゃべれない。須淡は膝がこきざみにふるえだした。

「何度もいわせるな。ふたりともこの部屋から出ろ。それでもまだいるつもりなら――」と語りかける饒舌なに、須淡も土院もはやく部屋から出たかった。しかし、形城の目に射られて立ちすくんでいた。

「……ふたりともいい度胸だが、私はとても残念だ。君たちはもっと物事の区別をわきまえていると思っていた。その償い、身をもってしてもらおうか」須淡と土院を交互にゆっくりと見据えるは、そうきっぱりと宣言した。
 須淡も土院も一刻もはやく部屋から出たかった。

須「すぐに部屋を出ます」

「もう遅い!」と言わんばかりにカッと形城のが見開くと、形城の姿が文字通り消えた。ふたりには形城が突然消えて、自分たちのうしろにまわったとは思ってもいない。
 形城の両手にある注射器が、須淡と土院の首すじに刺さり、一気に薬液を注入した。須淡と土院は振り返ることもできず、首になにか刺さったと思ったときには、すでに意識をなくして床に伏していた。

|

« 「常識を捨てる」と「常識がない」 | トップページ | 札 十六番――意識の次元 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/90629/4035964

この記事へのトラックバック一覧です: ふたりの研究員 寡黙な口、饒舌な目:

« 「常識を捨てる」と「常識がない」 | トップページ | 札 十六番――意識の次元 »