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2005.04.26

ふたりの研究員 主任と特例客員

 須淡と土院が立ち去り、まだふたりのしゃべり声が聞こえる。

霜月@特例客員研究員(以下、霜)「相変わらずですね」

 形城の背後にあらわれた霜月は、二百六十七番の札を差し出した。形城は振り返ることなく札を受け取り、番号も見ずにポケットに入れた。

形城@主任研究員(以下、形)「それはあたなのことでしょう、神出鬼没さん」
霜「それは三次元的視点です。僕はさっきからここで君たちの話を聞いていましたよ。ちゃんと私のことを話してあげればよかったのに。彼らは君が面倒をみている新人君でしょう」
形「面倒は見てない。ここに適応できるように再教育してるだけ。それにあなたのことは、一番の札を受け取ったときに根掘り葉掘り聞くでしょう。彼ら、好奇心だけはここに適応してるから。それなら私よりも本人から直接聞いたほうが彼らのためになるわ」
霜「そうですか。覚悟しておきますよ」

 肩をすくめる霜月。形城はあきれて無視した。

形「もう一番の札はわたしたあとくせに。しらじらしいわね」
霜「あなたほど演技派ではありませんから。彼ら、あなたがわざとどもっているとは見抜いてませんでしたね」
形「まだまだ常識にしばられすぎてるのよ」
霜「常識は研究の邪魔ですからね。あ、失礼失礼。あなたは研究ではなく“死闘”でしたね」
形「どっちでもいいわよ。もう聞き飽きたわ。どうせまたわざとまちがうんでしょう」
霜「手厳しいですね」

 霜月は大げさにジェスチャーをしてみせたが、形城は相手にしていない。

形「それで今日はなに? 用もなく姿を消して私に近寄ったら命はいらないって、それすらも忘れたの?」
霜「いやいや、ちゃんと覚えてます。覚えてますよ。その証拠にちゃんと肝に銘じてあります。なんなら見ますか、私の肝?」

 霜月は手首を腹にめり込ませた。文字通り肝をつかみ、今にも出そうとしている。

形「けっこうよ。用事があるならさっさとすませてちょうだい」
霜「はいはい」

 腹から取り出した手には、一通の手紙があった。宛先も宛名も差出人さえも書いてない。

形「どこから出すのよ」
霜「小腸です、小腸。おかげでなにも食べてないんですよ」

 テーブルに置かれた手紙は、少しだけ浮いていた。霜月本人には手紙をおおっているものが邪魔して、手紙本体にはさわることができない。形城の指が触れると、手紙をおおっていたもの――形城にはそれが見えない――が雲散霧消した。

形「もうちょっとマシなところに入れて運びなさいよ。まったく」
霜「私だって好きこのんで小腸に手紙を入れて運びたくはありませんよ。副所長と勝負しまして、負けてしまいましてね」
形「あの人も相変わらずね。ほら、用がすんだのだから、はやく別の次元にいきなさいよ」
霜「そうですね。ではでは。死闘で命を落とさないようお気をつけください」

 そう言うなり霜月は見えなくなった。
 形城はポケットから札を出して見つめた。これで霜月から渡された札は、二百六十七番目になる。

形「それは私の本望なのだけどね……まっ、理解できないでしょうね」

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